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【DSIX用コアの豆知識】/ by 柴崎 功

●FT-50#77コアとは?
 DSIXには、米国アミドン(AMIDON)社の“FT-50#77”コア相当品を使用します。
 これは“FT-50-77”と表記される場合もありますが、「フェライトのトロイダル形コアで、外径寸法が0.5インチ
 で、材質が77番である」ということを意味します。


 まず型名の意味から説明しましょう。
 アミドン製品輸入元のトヨムラから入手したアミドン・コアの資料によると、先頭の「FT」はコアのシリーズ名を意味
 し、コア材が“フェライト”で、形状が“トロイダル”の一連のコアをFTシリーズと呼びます。
 ですから、「FTはフェライト・トロイダルの略」だと覚えればよいでしょう。
 ちなみに、Fがつかない「T」シリーズは、“酸化鉄粉のトロイダル”コア、「FB」は“フェライト・ビーズ”のシリ
 ーズ名です。


 中央の「50」は、コア寸法を意味する数字です。
 「50」のコアは、外径が12.7mm(0.5インチ)、内径が7.14mm(0.28インチ)、厚みが4.77mm(0.19インチ)となっ
 ています。
 外径が0.23インチのフェライトコアがFT-23、0.83インチのフェライトコアがFT-83となっているので、「外径
 のインチ寸法を100倍した値」が、コア寸法を表わす数字となっているようです。
 ですから“FT-50”というのは、「外径が0.5インチのフェライト・トロイダルコア」の総称ということになります。


 最後の「77」は、材質を表わす数字です。
 77材は、μ(透磁率)が非常に高く、しかも広帯域な材質で、初透磁率が1,800、最大透磁率が6,000、飽和磁束密度
 が4,600ガウス、残留磁束密度が1,150ガウス、キュリー温度200度C、初透磁率温度係数0.6%度C、推奨周波数範囲が
 DC〜2MHzとなっています。


●FT-50#77コアの代替品が横行
 秋葉原で1個170円前後で売られているFT-50#77、あるいはFT-50-77と称するコアの大半は、実はアミド
 ンのFT-50#77コアではありません。
 アミドンの製品は3個入りパックで1,000円と高価なので、より安価な米国フェアライト・プロダクツ社の代替品“59
 77-000301”が、“FT-50#77”あるいは“FT-50-77”と称して売られています。
 ただ、形状も特性もほぼ同等の代替品なので、DSIXにはどちらを使っても構いません。
 実は私も、安価な代替品の方を愛用しております。(^^;)
 ちなみに本物のアミドン“FT-50#77”は、トヨムラで販売されています。
 (“アミドン”および“AMIDON”は、株式会社トヨムラの登録商標です)
 (トヨムラの連絡先は03-3257-2644です)


●ニセFT-50#77コアの見分け方とトラブル例
 この項で採り上げる“ニセ物コア”は、アミドン製ではない別会社の製品なのに、アミドン製品であるかのように装っ
 て売られている“代替品”の事ではありません。
 “FT-50#77”または“FT-50-77”、あるいはこれら“相当品”と称して売られていながら、材質が“77”
 ではなく、まったく磁気特性の異なる別材質のコアを指します。これが紛れ込んでいたため、私は一度酷い目に遭いま
 した。


 秋葉原のアイコー電子で購入した、FT-50-77と称するフェアライト社の代替品(5977-000301)の中に、写真右
 側のコアが1個紛れ込んでいました。
 両者は一見よく似ていますが、左の本物はコアの断面が“フラット”であるのに対し、ニセ物はコアの断面が弧を描い

 て“盛り上がって”います。(写真を参照・・天井灯照明で撮影した写真ストロボで撮影した写真
 断面がカーブしている方がコイルとの密着性が良さそうなので、最初は、「バージョンアップされた新形状の改良型だ
 ろう」と思っていました。
 ところが、これは磁気特性が全く異なる材質で、DSIXには使えませんでした。


 このニセ物コアを用いたDSIXは、出力パルスの右肩が極端に下がった、方形波というよりは鋸歯状波に近い波形と
 なり、D/AコンバーターのPLL回路がロックせず、全然音が出ない状態になりました。
 そこで各部の波形をチェックしてみたところ、パルストランスの1次側には綺麗な方形波パルス信号が入っているのに、
 2次側からは右肩が極端に下がったパルス信号が出て来るのです。
 この結果から、「コア以外には原因が考えられない」という結論に至り、コアを交換したら正常な出力波形となって、
 問題は一挙に解決しました。


 パルストランスは、1次コイルで電気信号を磁気信号に変換し、2次コイルで磁気信号を電気信号に変換する事により、
 電気的に絶縁された出力信号を作り出しますが、コアの磁気特性が良くないと磁気信号が歪んで、2次コイルに誘起さ
 れる電圧も歪んでしまいます。
 方形波の右肩が下がるということは、低域の周波数レスポンスが低下していることを意味します。
 そして低域レスポンスが低下する要因は、1次インダクタンスの低下ですから、ニセ物コアはμ(透磁率)が極端に低
 い材質だったのでしょう。
 パルスの立上がりは鈍っていませんから、周波数帯域自体は広いようです。
 恐らく、透磁率を犠牲にしてワイドレンジ化したコア材質なのでしょう。


 DSIXのコイル巻数は、ワイドレンジで、かつハイμ(高透磁率)のFT-50#77コアに合わせて、聴感とデー
 タの両面から“9ターン”という巻数に選んであります。ですから特性の異なるコアを用いる場合には、そのコアに合
 わせて、音質的に最適な巻数を再検討する必要があります。
 つまり、この例のようにμが低いコアを用いる場合には、9ターンのままでは使えませんが、コイルの巻数を十数ター
 ンに増やせば、1次インダクタンスの低下が補えるので、恐らくDSIXに使用することが可能になると思います。


 なお、このニセ物コアが紛れ込んでいたことをアイコー電子の店員に伝えたところ、「店頭では他品種が紛れ込む事は
 よくありますよ!」という返事が返ってきました。
 フェライトコアを店頭で購入される際は、コア形状に十分注意してください!


●DSIXのコイル巻数について
 DSIXでは、FT-50#77コアに9ターンのコイルを巻いたパルストランスを使用していますが、FT-50#7
 7でデジタルオーディオ信号伝送に最適な巻数を選定するにあたっては、7ターンから14ターンまで、8種類のパルス
 トランスを試作して、全種類の伝送特性測定、並びに試聴試験を行いました。
 その結果、伝送波形の忠実度という点では9ターンと10ターンが最良であり、音質的な忠実度という点では、9ターン
 がベストであるという結論に達しました。
 ちなみに、巻数が8ターンだと低域が締まり過ぎて、やや硬目の音、巻数が10ターンだと、低域がふっくらして量感は
 あるものの、ダンピングの甘いボンついた低音になります。
 この傾向を逆手に取れば、意図的に巻数を変えて、お好みの音質にDSIXをチューンナップすることも可能です。
 興味があったら試してみてください。
                                  以上


                   2000年5月12日 書き下ろし/ 柴崎 功
★参考文献★
● アミドンT/FT/FBシリーズ取扱説明書:トヨムラ発行


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   (柴崎 功メールアドレス:i-shibaz@sd6.so-net.ne.jp)